原画
原画(げんが)は、何らかの加工をほどこす前段階の、元となる絵。分野により、その具体的な意味は異なる。各節で詳説する。
美術
複製画を作成する際に、元として使用する絵。複製方法によって原画の状態や使用結果が異なる。
銅版画・リトグラフ
版画では、「直接版面に絵が描かれるため、原画は存在しない、とも言えるし、版面が原画であるとも言える[要出典]」という[誰?]。
浮世絵
浮世絵版画では、浮世絵師が和紙に毛筆で描いた原画を、彫師が版木に裏返しに貼りつけ、摺師がそのまま彫って凸版に仕上げる。このため原画は失われる。
模写・写真製版
すでに存在する原画について、それを見ながら手描きで一からまねして描く(模写)。または撮影して印刷する(写真製版)。他の原画が通常は線画のみであるのに対し、この場合は彩色などの仕上げを済ませた完成品である点が大きく異なる。
アニメーション
分業制の手描きによるアニメーションの制作過程で、動きの要所(動き始め、重要な中間ポイント、動き終わり)を描いた絵で、英語では主にkey AnimationまたはKey frame[1] などと表記される(この、キーアニメーション、もしくはキーアニメーターという言葉は、日本ではしばしば勘違いや慣例により、メインアニメーター=作画の中心となるアニメーター、という意味で使われる)。
原画マンを単に原画と呼ぶ場合もある。原画マンのキャリアについては原画マンを参照。副業としてイラストレーターや漫画家として活動している人物もおり、最終的にそちらを本業として活躍する例も存在する(例としていのまたむつみ、石田敦子など)。
以下ではアニメ(日本の商業アニメーション)にこえる原画を説明する。
原画 (アニメ)
アニメにおける
原画 (素材)
アニメの素材における
アニメはポーズ・トゥ・ポーズ方式で描かれ、原画はそのキーポーズに相当する線画である[4]。動きの流れのなかでメリハリをつけるべき要所のコマとして描かれる[5]。そのため原画をパラパラマンガすることでアニメーションの全体像を把握できる(動画参照)[5]。原画はキーポーズを正確に描いた線画ではあるが、実際の映像には表示されない。実際の映像に映る線は原画をクリンナップした動画である(原画間のコマは中割により描かれる)[2]。制作体制によっては原画のアタリになるラフ原画が描かれ監修される[6]。この方式の場合、ラフ原と区別するために原画を第二原画と呼ぶ[7]。
ラフ原画
アニメの制作工程にラフ原画を用いる場合、ラフ原画は演出と作画監督によってチェックされる。これにより動き(アニメーション)の監修を早期に受けられる[6]。
レイアウトとラフ原画を合わせて第一原画(一原)あるいはLOラフ原と呼ぶ場合もある[12][13]。ラフ原を第一原画と呼ぶ場合もある[11]。
原画 (工程)
アニメの制作工程における
原画はカット単位で制作される。原画を描く前に、原画マンはレイアウトを描く。このレイアウトに従って、原画マンが動きのポイントとなる原画を描く。
原画を描き上げた時点ではまだアニメーション作画は完成しておらず、(演出家や作画監督のチェックを経た後)滑らかに動いて見えるように、動画マンが原画をクリンナップし間のコマを中割して動画を描くことで、「動く絵」としてのアニメーション作画が一応の完成となる。原画マンは、動画マンに原画を渡す前に、動画を何枚描くか(タイムシート)、どのような動かし方をするか(ゲージ)、という指示を加える。動きに関しては原画の段階でほぼ完成形が見えているのが普通であり、動画マンが独自の解釈を加えて作画することは原則としてない。
難度の高い動きのカットの場合、 原画マンが予め原画と原画の中割の下書きを描いて添付することがある。下書きなので原画より簡易に描かれることが多い。これを中割参考(なかわりさんこう、略: 中参)と呼ぶ(数字を△マークで囲んだり、ア、イ、ウなど数字以外の番号を振ったりとシート上でも区別されることが多い)。
また中割り作業を動画マンに任せず、通常なら動画に相当する部分も全て原画で描く場合や、原画で全ての動きを描いて「中割要らず」にする場合(これを「全原画」や「フル原画」と呼んだりもする)もあり、この際動画マンが行うのは原画のクリーンアップのみである。
原画の枚数はカットと制作体制に依る。信頼できる動画マンがいる体制であれば最小枚数で済むし、品質管理を重視するのであれば全原画へと寄っていく[15]。
第一原画と第二原画
原画マンがラフに原画を描き一旦監修し、そこから原画としてクリーンアップすることがあり、前者を第一原画(一原)、後者を第二原画(二原)と呼ばれ、表記されることがある。第一原画のチェックの戻しが本人に渡ること(=一原/二原を同じ原画マンが描くこと)は「本人戻し」、別の原画マンが描くことは「二原撒き」とも呼ばれる[16]。
第二原画というラフ原画と動画の中間工程(セカンド)は、海外の制作に倣って『白蛇伝』から設けられているが、クレジット上は「動画」表記であり東映動画内の制度としてはその後自然消滅[17]。また『機動戦士ガンダム』などにおいてもラフ原画を安彦良和が担当して「作画」「アニメーター」に渡す制作が行われていた[18]。熟練のアニメーターがラフで多くのカットを手掛けることによって、作品全体のクオリティ向上と清書作業による新人育成に繋がるシステムとして改めて自覚的に導入され[19]、役職の「第二原画」は明記されるようになっていく。一方でどうしてもラフ原画までしか描く余裕がない、非常に厳しいスケジュール下においてもこの工程が発生する。
作画と3Dアニメが絡む場合において、ポジションや動きのガイドとしてラフ原画が描かれることがある。あるいはその逆で3Dを先に出力してそれに合わせて作画をする場合もあり、後者は3Dが動いて作画との組みが発生する場合に行われることが多い。
原画 (役職)
アニメの制作スタッフにおける
漫画
漫画分野において「原画」は、漫画家の直筆原稿のことを指すことが多く、「原画」と「原稿」は実質的に同義語となっている。
基本的には「原稿」の語が用いられるが、直筆原稿を展示するイベントなどの際には、「原画展」の形でこの語が用いられる(「原稿展」とは呼ばれないが、この理由は分かっていない)。
コンピュータゲーム
コンピューターゲームにおいては、コンピュータグラフィックスとして加工される前の段階の絵を指す。手描きの絵柄そのままがCGとして表示される場合などは限定的であり、たとえばポリゴンなどの3Dデザインの元として利用される場合には別の用語(キャラクターデザイン、イメージイラストなど)が使用されることが多い。
一枚絵と呼ばれる全画面CGが多用されるいわゆるギャルゲーやアダルトゲームで重要視されるが、ロールプレイングゲーム・シミュレーションロールプレイングゲーム・対戦型格闘ゲームなど、キャラクター性の強いゲームにおいてもカットインなどの手法で手描き原画を元にしたCGが使用されることがある。
原画をスキャナーなどでコンピュータに取り込んだだけ、ペンタブレットなどの機器で線画を描いただけではCGとして使用できない。線をクリーンアップしたり、影を入れたり、彩色などの作業を行う必要がある。これらの作業を専門に行う技術者も存在し、これを俗にグラフィッカーと呼ぶ。
アダルトゲーム
アダルトゲーム業界における「原画」職の位置づけは、他のジャンルとは少々異なり、作品制作において極めて重要な役割を負うことになる。
原画担当者が大半のケースでキャラクターデザインを事実上兼ねており、原画担当者の技量、センス、知名度、そして人気がゲームの売り上げを直接左右するなど、影響は非常に大きい。その為、この業界では一般的に「原画家」「原画師」と称されることが多い。また、ゲームソフト本体のみならず、広告宣伝や関連商品などに使用される素材イラストの制作にも原画担当者は不可欠である。
人気の原画家には強固なファンが付き、たとえシナリオやゲームシステムの不出来などのネガティブな情報が発売前から表面化していても「地雷上等」「原画家のCG集と割り切って買う」などと言って購入する。そこまでは行かなくても、絵でブランドを見分けていたり、ショップなどで見たパッケージがプレイヤーの購入の決め手となることも多い[要出典]。
ひとたび原画家の人気がカリスマ化するほどに沸騰すれば、これに牽引される形でブランド全体の知名度・販売実績・関連グッズ収入などが急拡大し、ひいては経営の成功にも繋がっていく。そのため、多くのメーカー・ブランドでは所属の原画家の人気が向上し、ブランドを背負って立つ大看板となることを期待している。だが一方で、この業界では大手・中堅とされるメーカー・ブランドであってもアニメやテレビゲームと比べれば開発チームの経営規模や販売規模が小さいのが一般的であり、得てして「原画家の人気=ブランドの人気」という状況にもなりやすい。だが、このような状態になると、今度は経営そのものが特定の原画家個人に極端に依存することになり、発言力が強まった原画家の意向にゲームソフトの方向性や、さらには開発チームそのものが振り回されたりするなど、このカリスマ化した人気原画家の言動が今度はメーカーにとってかえって密かな悩みの種になるという状況に陥ることがある。また、人材の流動・消長盛衰が激しい業界体質であり、それまでの作品の原画を一手に支えていた人気原画家の退職・離脱やスランプなどをきっかけとしてその原画家頼みだったブランドの人気の求心力が喪失することも往々に起きる。この場合、たとえ外注であっても代替となるだけの才能のある人物を確保できなければ、その後の作品の販売量が急減し、それまで拡大の一途を辿ってきたブランドや開発チーム、さらにはメーカーそのものが数年も経たぬうちに存続できなくなるケースもある。また、上述の理由や作風、担当するキャラクターとの相性により、特定の原画家に依存するリスクを分散させるため、複数の原画家が参加する例があるが、その場合、キャラクター間の整合性、統一感が損なわれる場合がある。また、SD原画を専門に担当する原画家もいる。
このように、アダルトゲーム業界においては「原画」の担当者個人にかかる職責が大きく、それゆえに人気が沸騰することによるメリットは本人のみならずメーカーにとっても大きく重要なものである反面、メリット一辺倒というわけでもない一面がある。
脚注
出典
- ^ 響け!ユーフォニアム premium Key frame Drawings #01 複製原画集10枚入り 2019年3月9日に確認
- ^ a b c d "【原画】…アニメーションの作画制作過程で、演技に合わせた動きの要所(動き始め、重要な中間ポイント、動き終わり)を描いた絵です。... 英語ではKey animation(drawing)。... 【動画】... 原画の清書(原画トレス)を行った上で" 一般社団法人日本動画協会人材育成委員会 2020, p. 12 より引用。
- ^ "原画 げんが 動きの要所(動き始め、節目となるポイント、動き終わり)を描いた絵素材のこと。 " 以下より引用。SHIROBAKO製作委員会. 用語集. SHIROBAKO公式HP. 2024-10-20閲覧.
- ^ "ポーズ・トゥ・ポーズ Pose to pose アニメーションのつくり方のひとつ。最初に全てのキーポーズをつくり、後で中割をつくっていく。" 尾形 2022 より引用。
- ^ a b "ポーズ・トゥ・ポーズ ... ポーズをつくり込みやすい、動きの全体像を早い段階で把握できるといったメリットがある" 尾形 2022 より引用。
- ^ a b c "原画を制作する工程では、第一段階として、絵コンテに沿って画面を設計したレイアウト、簡易な絵で原画のあたりを付けたラフ原画、原画のタイミングを示したタイムシートをセットで制作します。これらを演出や作画監督等がチェック ... 前半の工程を第一原画" 一般社団法人日本動画協会人材育成委員会 2020, p. 12 より引用。
- ^ "簡易な絵で原画のあたりを付けたラフ原画 ... 第二段階として納品物となる原画を清書します。... ラフ原画を清書に仕上げる工程を第二原画" 一般社団法人日本動画協会人材育成委員会 2020, p. 12 より引用。
- ^ "実際に作画する原画と同枚数で動きを作ったラフ画のセットの「ラフ原画」" 一般社団法人日本動画協会人材育成委員会 2020, p. 35 より引用。
- ^ "ラフで描かれた原画である「ラフ原画」" 山本. (2015). スタッフルームだより #5. 『この世界の片隅に』公式HP.
- ^ "ラフで描かれた原画である「ラフ原」" 山本. (2015). スタッフルームだより #6. 『この世界の片隅に』公式HP.
- ^ a b "ラフ原 らふげん 前述の原画作業行程中、レイアウト+第一原画(一原)までの工程、あるいは成果物。原画のフィニッシュワーク前のもの" 以下より引用。SHIROBAKO製作委員会. 用語集. SHIROBAKO公式HP. 2024-10-24閲覧.
- ^ "原画工程が更に“レイアウトラフ原画”(“LOラフ原”又は“第1原画”)と“第2原画”とに細分化されることが多い。" 桶田. (2023). アニメーター・演出を中心としたアニメ制作のワークフローと職種. 厚生労働省.
- ^ "第一原画(レイアウト、ラフ原画)" 一般社団法人日本動画協会人材育成委員会 2020, p. 25 より引用。
- ^ 『Culture:Japan』『ミライミレニアム』内で使われるアニメの原画。
- ^ "クリエーション部の吉原部長が、思い出話をするようにオープンキャンパスで語っていました。... 「昔のアニメーターの原画枚数は少なかった。それでも社内で直接指導している動画マンに動画の中割りを任せられれば質が保てた。... 動仕撒き』が始まった頃から ... 少ない原画枚数では中割りで作画が崩れることが頻繁に起きた。作画崩壊ってやつだね。原画マンはそれを防ぐために、社内の動画マンに任せていれば本来は描く必要がなかった絵も原画にすることで絵が崩れるのを防いだ。当然原画枚数が増える。" 堀川. P.A.養成所のこと。若手アニメーターの育成のこと。 【前編】. P.A.Press. 2024-10-27閲覧.
- ^ "── 基本的には一原なんですね。今石 そうです。最後まで原画を描いたのは、確か1カットだけです。あれだけが最後まで吉成さんが描いたカットで、それ以外は全部、二原撒きですね。"岡本敦史. (2008). 今こそ語ろう『天元突破グレンラガン』制作秘話!! 第27話 天の光はすべて星. アニメスタイル.
- ^ 大塚康生「2章 日本初のカラー長編動画」『作画汗まみれ 改訂最新版』株式会社文藝春秋、2013年。ISBN 978-4-1-6812200-2。
- ^ 氷川竜介 (2017年6月14日). “劇場版『機動戦士ガンダム』Last Shootingの輝くまで 第3回”. mine. 2020年5月17日閲覧。
- ^ “アニメの作画を語ろう animator interview 中村豊(3)”. WEBアニメスタイル (2003年8月8日). 2020年5月17日閲覧。
- ^ "【原画マン】 絵コンテに沿って画面を設計する(レイアウト)作業、演出が要求する動きや演技を絵に描いてい く(ラフ原画、第二原画)作業を行うスタッフです。" 一般社団法人日本動画協会人材育成委員会 2020, p. 25 より引用。
- ^ "原画 ... 動きの要所(動き始め、節目となるポイント、動き終わり)を描いた ... このセクションを担当する者を原画マンと呼ぶ" 以下より引用。SHIROBAKO製作委員会. 用語集. SHIROBAKO公式HP. 2024-10-20閲覧.
参考文献
- 一般社団法人日本動画協会人材育成委員会『TVアニメシリーズ制作における制作進行のマニュアル』一般社団法人日本動画協会 人材育成委員会、2020年 。
- 尾形 (2022), “日本人には馴染みの薄い用語も⁉ 押さえておこう! CGアニメーターのための用語集”, CGWORLD