原画
原画(げんが)は、何らかの加工をほどこす前段階の、元となる絵。分野により、その具体的な意味は異なる。各節で詳説する。
美術
複製画を作成する際に、元として使用する絵。複製方法によって原画の状態や使用結果が異なる。
銅版画・リトグラフ
版画では、「直接版面に絵が描かれるため、原画は存在しない、とも言えるし、版面が原画であるとも言える[要出典]」という[誰?]。
浮世絵
浮世絵では、浮世絵師が和紙に毛筆で描いた原画を、彫師が版木に裏返しに貼りつけ、そのまま彫って凸版に仕上げる。このため原画は失われる。
模写・写真製版
すでに存在する原画について、それを見ながら手描きで一からまねして描く(模写)。または撮影して印刷する(写真製版)。他の原画が通常は線画のみであるのに対し、この場合は彩色などの仕上げを済ませた完成品である点が大きく異なる。
アニメーション
分業制の手描きによるアニメーションの制作過程で、動きの要所(動き始め、重要な中間ポイント、動き終わり)を描いた絵で、英語では主にkey Animationと表記される(この、キーアニメーション、もしくはキーアニメーターという言葉は、日本ではしばしば勘違いや慣例により、メインアニメーター=作画の中心となるアニメーター、という意味で使われる)。
原画を描く人(原画マン、原画家、原画担当者)を単に原画と呼ぶ場合もある。
原画を描く前に、原画マンはレイアウトを描く。レイアウトとは、背景や人物などを含めた大まかな画面設計図である。レイアウトは、専門のレイアウト担当者が描く場合もある。このレイアウトに従って、原画マンが動きのポイントとなる原画を描く。
原画を描き上げた時点ではまだアニメーション作画は完成しておらず、(演出家や作画監督のチェックを経た後)なめらかに動いて見えるように、動画マン(動画担当者、動画)が動画(中割り)を描き加えることで、「動く絵」としてのアニメーション作画が一応の完成となる。原画マンは、動画マンに原画を渡す前に、動画を何枚描くか(タイムシート)、どのような動かし方をするか(ゲージ)、という指示を加える。動きに関しては原画の段階でほぼ完成系が見えているのが普通であり、動画マンが独自の解釈を加えて作画する事は原則としてない。
難度の高い動きのカットの場合、 原画マンが予め原画と原画の中割りの下書きを描いて下流工程の動画マンに渡すことがある。下書きなので原画より簡易に描かれることが多い。これを中割り参考(中参)と呼ぶ(数字を△マークで囲んだり、ア、イ、ウなど数字以外の番号を振ったりとシート上でも区別されることが多い)。
また、中割り作業を動画マンに任せず、通常なら動画に相当する部分も全て原画で描く場合や、原画で全ての動きを描き、中割り要らずにする場合(これを「全原画」や「フル原画」と呼んだりもする)もあり、この際動画マンが行うのは原画のクリーンアップのみである。
制作工程や原画製作のスケジュールが非常に厳しい状況において、元々の原画マンがラフに原画を描き、他の原画マンが原画としてクリーンアップすることがあり、前者を第一原画(一原)、後者を第二原画(二原)と呼ばれ表記されることがある。この“第二原画”のポジションは新人の原画マンの育成や実践練習のために設置される場合もたびたびある。また、作画と3Dアニメが絡む場合において、ポジションや動きのガイドとしてラフ原画が描かれることがある。あるいはその逆で3Dを先に出力してそれに合わせて作画をする場合もあり、後者は3Dが動いて作画との組みが発生する場合に行われることが多い。
なお、原画マンはまず動画マンとしての下積み経験を経たあと原画マンに昇格するのが通例である。原画マンとしても経験を積めば作画監督や総作画監督へ昇格することもある。また本人の才能や、監督やプロデューサーの引き立てによってキャラクターデザイナーとなってゆく人物もいるが、アニメーター全体から見れば一握りである。また演出家へと進出する原画マンも多い。副業としてイラストレーターや漫画家として活動している人物もおり、最終的にそちらを本業として活躍する例も存在する。(例としていのまたむつみ、石田敦子など。)
なお、このような作業システムは主に日本の商業アニメーション制作において慣習となっているものであり、欧米のアニメーション制作においてはまた異なった作業工程や役割分担が採られることが多い。
漫画
漫画分野において「原画」は、漫画家の直筆原稿のことを指すことが多く、「原画」と「原稿」は実質的に同義語となっている。
基本的には「原稿」の語が用いられるが、直筆原稿を展示するイベントなどの際には、「原画展」の形でこの語が用いられる(「原稿展」とは呼ばれないが、この理由は分かっていない)。
コンピュータゲーム
コンピューターゲームにおいては、コンピュータグラフィックスとして加工される前の段階の絵を指す。手描きの絵柄そのままがCGとして表示される場合などは限定的であり、たとえばポリゴンなどの3Dデザインの元として利用される場合には別の用語(キャラクターデザイン、イメージイラストなど)が使用されることが多い。
一枚絵と呼ばれる全画面CGが多用されるいわゆるギャルゲーやアダルトゲームで重要視されるが、ロールプレイングゲーム・シミュレーションロールプレイングゲーム・対戦型格闘ゲームなど、キャラクター性の強いゲームにおいてもカットインなどの手法で手描き原画を元にしたCGが使用されることがある。
原画をスキャナーなどでコンピュータに取り込んだだけ、ペンタブレットなどの機器で線画を描いただけではCGとして使用できない。線をクリーンアップしたり、影を入れたり、彩色などの作業を行う必要がある。これらの作業を専門に行う技術者も存在し、これを俗にグラフィッカーと呼ぶ。
アダルトゲーム
アダルトゲーム業界における「原画」職の位置づけは、他のジャンルとは少々異なり、作品制作において極めて重要な役割を負うことになる。
原画担当者が大半のケースでキャラクターデザインを事実上兼ねており、原画担当者の技量、センス、知名度、そして人気がゲームの売り上げを直接左右するなど、影響は非常に大きい。その為、この業界では一般的に「原画家」「原画師」と称されることが多い。また、ゲームソフト本体のみならず、広告宣伝や関連商品などに使用される素材イラストの制作にも原画担当者は不可欠である。
人気の原画家には強固なファンが付き、たとえシナリオやゲームシステムの不出来などのネガティブな情報が発売前から表面化していても「地雷上等」「原画家のCG集と割り切って買う」などと言って購入する。そこまでは行かなくても、絵でブランドを見分けていたり、ショップなどで見たパッケージがプレイヤーの購入の決め手となることも多い。
ひとたび原画家の人気がカリスマ化するほどに沸騰すれば、これに牽引される形でブランド全体の知名度・販売実績・関連グッズ収入などが急拡大し、ひいては経営の成功にも繋がっていく。そのため、多くのメーカー・ブランドでは所属の原画家の人気が向上し、ブランドを背負って立つ大看板となることを期待している。だが一方で、この業界では大手・中堅とされるメーカー・ブランドであってもアニメやテレビゲームと比べれば開発チームの経営規模や販売規模が小さいのが一般的であり、得てして「原画家の人気=ブランドの人気」という状況にもなりやすい。だが、このような状態になると、今度は経営そのものが特定の原画家個人に極端に依存することになり、発言力が強まった原画家の意向にゲームソフトの方向性や、さらには開発チームそのものが振り回されたりするなど、このカリスマ化した人気原画家の言動が今度はメーカーにとってかえって密かな悩みの種になるという状況に陥ることがある。また、人材の流動・消長盛衰が激しい業界体質であり、それまでの作品の原画を一手に支えていた人気原画家の退職・離脱やスランプなどをきっかけとしてその原画家頼みだったブランドの人気の求心力が喪失することも往々に起きる。この場合、たとえ外注であっても代替となるだけの才能のある人物を確保できなければ、その後の作品の販売量が急減し、それまで拡大の一途を辿ってきたブランドや開発チーム、さらにはメーカーそのものが数年も経たぬ内に存続できなくなるケースもある。
このように、アダルトゲーム業界においては「原画」の担当者個人にかかる職責が大きく、それゆえに人気が沸騰することによるメリットは本人のみならずメーカーにとっても大きく重要なものである反面、メリット一辺倒というわけでもない一面がある。