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カリス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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三美神』(アグライアー、エウプロシュネー、タレイア)、ラファエロ・サンティ/絵、1504-1505年頃、コンデ美術館所蔵

カリス古希: Χάρις, Charis)は、ギリシア神話に登場する、と優雅を司る女神たち。複数形はカリテス古希: Χάριτες, Charites)。

概要

カリスは通常はゼウスオーケアノスの娘エウリュノメーの娘たちとされるが[1]、母親はヘーラーとする説もある。また、ヘーリオスヘスペリスたちの一柱アイグレーの娘たち[2]、あるいはディオニューソスアプロディーテーの娘たちとする説もある。ローマ神話にも取り入れられ、グラティアGratia、複数形グラティアエ, Gratiae)と呼ばれた。英語読みグレイスGrace、複数形グレイシーズ, Graces)でも知られる。

カリスたちは美しい若い娘の姿であるとされる。オリュムポス山の山頂に住み、神々の宴ではアポローンの竪琴やムーサたちの歌声と共に演舞した。神々や人々に肉体的な美しさを表して喜ばせるだけでなく、精神的な部分においても優美を与えたといわれるため、美術だけでなく技術を志す人々にも信仰された。本来はの芽生えの活力を表した神であったと考えられている。愛と美の女神となってからはアプロディーテーの従者とされるようになり、またその娘とする説も生まれた。

カリスのリスト

元々人数は不定であったらしい。ヘーシオドスの『神統記』によれば、ゼウスと美しき海の女神・エウリュノメーの娘たちとしてアグライアー(「輝き (aglaia)」)、エウプロシュネー(「喜び (euphrosyne)」)、タレイア(「花盛り (thaleia)」)の3柱の名があげられており、一般的にはこの「三美神」がよく知られているが、他の叙事詩ではパーシテアー(「万物の女神 (pasithea)」)[3]カレー(「美女 (kale)」)[4]アウクソー(「成長 (auxo)」)とヘーゲモネー(「女王 (hegemone)」)[5]クレーター(「呼ばれる女 (kleta)」)とパエンナー(「輝く女 (phaenna)」)[6]カリス(「優雅 (Charis)」)[7]などの名が挙げられている。また、ペイトー(「説得 (Peitho)」)もカリスの1柱と言われることがある[8]

パーシテアーはホメーロスの『イーリアス』に登場することでよく知られており、パーシテアー、カレー、エウプロシュネーの3柱を、またはノンノスの『ディオニューソス譚』ではパーシテアー、ペイトー、アグライアーの3柱をカリスたちとする説もある。また、アテーナイではアウクソーとヘーゲモネーの2柱以外にペイトーも加えた3柱を、ラコーニア地方ではクレーターとパエンナーの2柱をカリスたちとしていた。後にラコーニア地方のスパルタではアグライアー、エウプロシュネー、クレーターの3柱を指すようになった。またヘーパイストスの妻をカリスの1柱とする説があり、一般的にはこれはアグライアーであるとされるが[9]、ホメーロスによれば単にカリスという名であるとされている[7]

明らかとなっているカリスたちは下表参照。

プリマヴェーラ』(Primavera)細部、サンドロ・ボッティチェッリ/絵、1482-1485年頃、ウフィツィ美術館所蔵
カリス 古代ギリシア語 ラテン語 名前の意味
アグライアー Αγλαια Aglaia 輝き
エウプロシュネー
またはエウティミアー
Ευφροσυνη
Ευθυμια
Euphrosyne
Euthymia
喜び
愉快さ
タレイア
またはタリアー
Θάλεια
Θαλια
Thaleia
Thalia
花盛り
パーシテアー Πασιθεα Pasithea 万物の女神
カレー
またはカレーイス
Καλη
Καλλεις
Cale
Calleis
美女
カリス Χάρις Charis 優雅
クレーター Κλητα Cleta 呼ばれる女
パエンナー Φαεννα Phaenna 輝く女
アウクソー Αυξω Auxo 成長
ヘーゲモネー Ἡγεμονη Hegemone 女王
ペイトー Πειθώ Peitho 説得

脚注

  1. ^ ヘーシオドス、907~909。アポロドーロス、1巻3・1。ヒュギーヌス、序文。
  2. ^ アンティマコス(パウサニアス、9巻35・5の引用)。
  3. ^ 『イーリアス』14巻。
  4. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.100b。ロバート・グレーヴス『ギリシア神話』。
  5. ^ パウサニアス、9巻35・2。
  6. ^ パウサニアス、3巻18・6、9巻35・1。
  7. ^ a b 『イーリアス』18巻。
  8. ^ パウサニアス、9巻35・1。
  9. ^ ヘーシオドス、945~946。

参考文献

関連項目