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分数階微積分学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

分数階微分積分学(ぶんすうかいびぶんせきぶんがく、: fractional calculus)は解析学(特に微分積分学)の一分野で、微分作用素 D および積分作用素 J [1]が実数冪あるいは複素数冪をとる可能性について研究する学問である。

この文脈における「冪」の語は作用素の合成を繰り返し行うという意味で用いており、それに従えばたとえば f2(x) = f(f(x)) ということになる。さてたとえば、微分作用素 D平方根(あるいは微分を半分だけ作用させる)という意味での式

に何か意味のある解釈をつけられるかということを考える。この式は、つまりある作用素を「二度」作用させて、微分作用素 D と同じ効果を得られるということを意味しているのであり、あるいはもっと一般に、実数 s に対して微分作用素の冪

にあたるものを決定できるかという問をも考えることができるだろう。このとき、s が整数 n を値にとるならば、n > 0 のときこの冪は通常の意味での n-階微分作用素となり、n < 0 のときは積分作用素 J の (−n)-乗となるように定義されるものでなければならない。

このようなことを考える理由はいくつかある。ひとつはそれによって「離散」的な変数 n で添字付けられる微分作用素の族 Dn 全体が作る半群を実数 s を径数とする「連続」的な半群のなかにあるとして考えられるようになることである。連続的半群というものは数学のさまざまなところに現われ、豊かな理論を備えている。分数階微分積分学では、冪として必ずしも有理数冪に限らず実数冪や複素数冪を一般に扱うため「分数階」という名称で呼ぶのは少々紛らわしいが、慣習的に「分数階微分積分学」の名称が使われている。

分数階微分作用素

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このような理論の存在については、1832年からのリウヴィルの論文にその素地を見ることができる[2][3]。函数の階数 a の分数階微分は今日ではしばしばフーリエ変換あるいはメリン変換といった積分変換の意味で定義される。重要なことは、点 x における分数階微分というものが「局所的」な概念であるのは、a が整数値をとる場合に限られるという点である。つまり、非整数階の場合には、函数 f の点 x における分数階微分が x の極近くでの f のグラフのみに依存して決まるということができない(整数階微分であればこれが言える)。然るに、分数階微分作用素の理論においてはある種の境界条件や函数についてのさらなる情報が関わってくることが想定される。喩えるならば、分数階微分はある種の周辺視野を要求するのである[4]

経験則

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まず相応に自然な疑問は、半微分 (: half-derivative) と呼ばれるべき、作用素 H

を満たすものは存在するかということであろう。そのような作用素は存在する。実際には任意の実数値 a > 0 に対して

を満たす作用素 P が存在することがいえる。言い方を変えれば、n-階微分 dnydxnn を任意の実数値に拡張することができるのである。

もう少し詳しく述べるに、階乗の非整数値への拡張としてのガンマ函数 Γ から始める。ガンマ函数は

を満たしていることを利用する。さて函数 f(x) は x > 0 で矛盾なく定義され、0 から x までの定積分

.

ができるものと仮定する。これを繰り返して

や任意の自然数冪 Jnf に拡張することができるが、反復積分に関するコーシーの公式によれば

である。また、階乗函数を用いる代わりに(Γ(n + 1) = n! あるいは同じことだが Γ(n) = (n − 1)! の関係にある)ガンマ函数に置き換えれば、

  

とも表せる。これを用いれば直接に n が実数だけでなく複素数である場合にまで一般化することができる。すなわち、ガンマ函数を複素数の範囲まで広げることにより、積分作用素を「分数(負の整数を除く複素数)階適用する」作用素の自然な候補として

を与えることができる。これは実際に作用素として矛盾なく定まる

作用素 J は可換かつ加法的である。つまり、

証明

ここで、最後のステップで積分の順序を入れ替え、f(s) をくくりだした。変数 rt = s + (xs)rと定義し、置換すると、

内側の積分はベータ函数と呼ばれ、次の性質を満たす。

これを代入して、

従って、作用素 Jαβ の入れ替えに無関係であり、証明が完了した。

が成立する。この性質は、分数階微積分作用素の半群性と呼ばれる。残念ながら微分作用素 D に関しての同様の議論はこれよりももっと著しく複雑なものになってしまうが、それでも D が一般には可換にも加法的にもならないことは示すことができる。

簡単な函数の二分の一階導函数

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函数 f(x) = x(青)とその半導函数(紫)、一階導函数(赤)。函数f(x)と一階導函数の中間の性質がある。

ここで函数 f(x) として

という形の単項式を考える。この一階導函数は周知の如く

で与えられる。また、この二階導函数は

で与えられる。微分を繰り返せば一般に

を得る。ここで、階乗ガンマ函数に置き換えることにより

が成り立つものと考えることができる。そのため、たとえば x の半微分(二分の一階導函数)は

で与えられる。これをもう一回行うと、

が得られる。これはすなわち、そもそも成り立って欲しかった性質である

がきちんと満たされていることを意味している。ここで、上述のような微分作用素の拡張は、なにも実数冪のみに縛られるものではない。例えば (1 − i)-階導函数の (1 + i)-階導函数は二階微分を与えるものである。もちろん a が負の整数以外の負の値をとるならば適当な積分が与えられる(Γ(x+yi)の定義域はx>0)。

ラプラス変換

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ラプラス変換に関する話として分数階微積分の問題を考えることもできる。

などが成立することに注意して、ここでは

が成り立つものと考える。例えば、

となることが期待される。実際に、畳み込み公式

が与えられれば(p(x) = xα−1 として)

となることが示される。これは上述のコーシーの公式に他ならない。

ラプラス変換が上手く計算できる函数は比較的少ないが、しかし分数階微分方程式を解くにあたってはしばしば有用である。

分数階微分方程式

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分数階積分

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リーマン-リウヴィル分数階積分

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古典的な形での分数階微分積分学は、リーマン-リウヴィル積分によって与えられるもので、これは本質的には上で述べたような内容のものである。また、一定周期ごとに繰り返すという「境界条件」を課せば、周期函数に対する理論であるワイル微積分英語版が考えられる。これはフーリエ級数に対して定義され、一定のフーリエ係数が消えている(したがって単位円上の積分して 0になるような函数に適用できる)ことを要請する。

対して、グリュンバルト-レトニコフ微分英語版 は積分の代わりに微分から始める理論である。

アダマール分数階積分

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アダマール分数階積分は J. Hadamard [5] によって導入され、次の式で与えられる。

函数解析

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函数解析学の文脈では、冪のみならずもっと一般に函数 f に対する作用素 f(D) についてスペクトル論汎函数計算における研究がなされる。擬微分作用素の理論においても D の冪について考えることができる。この作用素は特異積分作用素英語版 の例として得られる。また、古典理論の高次元への一般化はリースポテンシャルの理論と呼ばれる。したがって「分数階微分積分学」について論じるのに、いくつもの現代的理論を利用することができる。

特殊函数論で重要なErdélyi-Kober operatorも参照。

分数階偏微分

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脚注

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  1. ^ ここで積分作用素の J は integration の頭文字 I を用いるところ、I は恒等写像など他の意味に使われたり、I に似た字形の記号・文字がいろいろと使われたりすることによる混同を避けるためにしばしば使われる。
  2. ^ Liouville, Joseph (1832), “Mémoire sur quelques questions de géométrie et de mécanique, et sur un nouveau genre de calcul pour résoudre ces questions”, Journal de l'École Polytechnique (Paris) 13: 1-69, https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k4336778/f2.item.r=Joseph%20Liouville .
  3. ^ Liouville, Joseph (1832), “Mémoire sur le calcul des différentielles à indices quelconques”, Journal de l'École Polytechnique (Paris) 13: 71-162, https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k4336778/f72.image .
  4. ^ この主題の歴史については、以下の修士論文(フランス語)Stéphane Dugowson, Les différentielles métaphysiques (histoire et philosophie de la généralisation de l'ordre de dérivation), Thèse, Université Paris Nord (1994) を参照。
  5. ^ Hadamard, J. (1892), “Essai sur l'étude des fonctions données par leur développement de Taylor”, Journal of pure and applied mathematics 4 (8): 101–186, https://eudml.org/doc/233965 

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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