ミステリ
ミステリ、ミステリー、ミステリィ (英語: mystery)とは、(1)神秘、不思議[1]、(2)聖史劇(神秘劇とも)[1]、(3)推理小説[1]などのフィクション作品を指します。 ミステリーの主な特徴は以下のようなものがあります:
- 謎の解明が物語の中心となる - 登場人物が事件の真相を探っていく過程が重要
- 読者/視聴者も一緒に謎を解いていく - 登場人物と同じように謎を解明していく楽しみがある
- 予想外の展開や驚きの結末 - 最後まで読者/視聴者の予想を裏切るような展開が多い
- 論理的な推理が重要 - 登場人物の推理過程が丁寧に描かれることが多い
- 犯罪や事件が主な題材 - 殺人事件、失踪事件、盗難事件などが多く扱われる
ミステリーは推理小説やサスペンス映画などのサブジャンルを含む大きなジャンルで、探偵小説、ハードボイルド小説、ロジカル・ミステリーなど様々な形態がある人気のジャンルです。謎の解明を通して読者/視聴者の知的好奇心を刺激するのが大きな魅力となっています。
神秘・不思議
[編集]英語のmystery ミステリーは、ギリシア語の「ミューステリオン」を語源としており、神の隠された秘密、人智では計り知れないことを指している。
漢字表現に置き換える場合は「神秘」や、あるいは「不思議(不可思議)」が当てられる。
神秘劇
[編集]中世のヨーロッパでは神秘の物語が、文字を読めない一般人にも理解できるように、演劇作品として、広場などでさかんに上演されるようになった。そうした神秘物語を題材とした演劇も「ミステリー」と呼ばれている。
推理小説などのフィクション作品
[編集]フィクションのジャンルとしては「作品中で何らかの謎が提示されやがてそれが解かれてゆく」という類のもの。例えば、作品中で事件(犯罪)が起きるが、その犯人が誰なのか、また動機が何なのか、あるいはどのように犯行を行ったのか、ということなどが読者にとって隠されたまま(謎のままに)物語が展開し、作品の最後の辺りで謎が解き明かされる(種明かしがされる)といった作品である。一般的には作品の最後辺りまで謎が残るような展開(読者が謎を知りたいあまりに思わず読み進んでしまうような手法)で書かれている。つまり「種明かし」が「引き延ばされ」、読者を「じらす」ような手法が採られるのでその意味では推理小説は「サスペンス」というジャンル分けとも重なっていることも多い(なお、「サスペンス」は、語源的には「サスペンド」(引き伸ばす)という動詞の派生語が転じてジャンル名になったもの)。謎(不可思議)は事件ばかりでなく、現代風に言うところの「超常現象」の場合もある。また、過去や現代の世界のものもあれば、未来的・SFなどの世界観(舞台)は様々となっている。そのため、一般的な読者層の一部にはオカルトやホラーをメインにした小説をもミステリーと呼ぶ人もいる。ただ、実作者、評論家、出版関係者などでは(SFミステリーなどクロスオーバー的な作品は別として)この用法は殆ど見られない。
仁賀克雄による定義では、「発端の不可思議性」「中途のサスペンス」「結末の意外性」が挙げられている[2]。「発端の不可思議性」とは、最初に奇妙な事件や謎を提示して読者を引きつけることを指す。これを作者は論理的に解明していくが、同時に読者が自ら推理を試みることを期待し、作者との知恵比べが行われる。「中途のサスペンス」は謎の提示と最終的な解明をつなぐ部分をいう。不安感を煽る事件を起こしたり、推理の手がかりを提供したりして、エンターテインメントとして読者の興味を引き離さない工夫がなされる。「結末の意外性」はそれらを受けた最も重要な部分であり、読者の予想を裏切る形で謎や真相の解明がなされる結末のこと。広くは、完全犯罪が成立して終結する場合と、その解決に向けての捜査活動および推理がなされて犯人が逮捕されたり真相が明らかにされる場合がある。
小説に限ってはおらず、漫画・映画・テレビドラマ・ゲームなどの各媒体で幅広く展開している。
歴史
[編集]仁賀によるとミステリの生みの親はエドガー・アラン・ポーだといわれる。ただし、その作品のうちミステリと呼べるものは数編に留まり、『モルグ街の殺人』が史上初のミステリとされる。直感ではなく証拠と論理的推論によって謎の解明を行うというミステリの形式はこの作品によって生み出されたという。また、ポーは同作を含む数編で、密室殺人、名探偵とその言動を記す主人公、心理的盲点といったその後のミステリ全体の原型を提示している[2]。 同時期にチャールズ・ディケンズは双子トリックを使った『荒涼館』を発表、必ずしもミステリを目したわけではないが、犯罪の謎とその論理的解明を全編を通じて描いた。
続くアーサー・コナン・ドイルによる『シャーロック・ホームズ』シリーズの人気は、ポーによって生み出されたミステリをエンターテインメントとして一つの分野を形成するまでに押し上げた。4冊の長編と5冊の短編集を世に問い、シャーロキアンと呼ばれる熱狂的ファンを生み出して今日まで世界各国でホームズ研究が続けられることになった。さらにホームズの成功に対抗する動きから、いくつかの重要な機軸が生まれた。オースティン・フリーマンは倒叙形式を提示し、マシュー・フィリップ・シールは安楽椅子探偵の創造者とされる[2]。
1920年代は「本格ミステリの黄金時代」という。1920年にフリーマン・ウィルス・クロフツは『樽』を執筆し、アリバイ崩しというジャンルを確立した。そして同じく1920年に『スタイルズ荘の怪事件』でデビューしたのが、ミステリの女王と呼ばれるアガサ・クリスティである。この作品で登場した探偵エルキュール・ポアロのシリーズ、ミス・マープルのシリーズ、その他長編66作短編集19作にも及ぶ作品からなる。中でも『そして誰もいなくなった』や『ねずみとり』は自ら戯曲化し、前者は何度も映画化され、後者はその後長く舞台上演が続くことになった[2]。
クリスティに戯曲作家としての側面があったように、推理小説からはじまったミステリはやがて舞台化、映画化、テレビドラマ化がなされていくことになる。既に1893年にホームズが登場する舞台として「時計の下に」が上演され、1903年には米国で『シャーロックホームズの当惑』が映画化されていた。やがて諸媒体独自のミステリも生まれ、今では漫画やゲームにいたるまで幅広いメディアにおいてミステリというジャンルの作品が存在する。
特性
[編集]犯罪の発生における犯人や犯行方法、動機その他の真相は、一部または全部が物語終盤まで隠されていることが多い。かつては真相は犯人が誰かということに関心が集中する傾向もあったが(いわゆる、"Who done it?"。欧米では、この形式のミステリ自体をもじって"Whodunit"と呼ぶ)、動機や犯行手段(それぞれ、"Who done it?"をもじって、"Why done it?"、"How done it?"と呼ばれたりもする)などのその他の面に関心を持たせる作品も増えている。意図的にその効果を狙う方法として『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』にみられるように倒叙と呼ばれる技法が用いられることもある。
また、小説から始まったミステリにも、媒体による特性の違いが見られるようになってきた。例えば漫画におけるミステリにおいては、『金田一少年の事件簿』にみられるように台詞や説明文によらずコマ絵中に視覚的に手がかりを忍ばせる手法が用いられている。またゲームにおけるミステリには、プレイヤーが物語の進行に参加するメディアとしての特徴をふまえた特徴的な作品が見られる[3]。プレイヤーの選択によってミステリ・サスペンス・ホラーといった物語の展開自体が変化するもの、映像や音楽といったサウンドノベルならではの要素によって真相を見えにくくするというトリックが用いられているものもある。
トリック
[編集]推理の楽しみを増す単純な方法は、簡単には真相を見抜けなくすることである。こうして真相を隠すためには様々なトリックが用いられる。読者(視聴者、ユーザー)が推理を楽しむために、製作者側との間である程度の暗黙の約束が存在するとされる(詳細はトリックにまつわる暗黙の了解、ノックスの十戒、ヴァン・ダインの二十則を参照のこと)。ただし全ての作家が同意した約束が存在するわけではなく、この通りに厳密に守られることも必ずしも多くはない。ある程度原則を崩すことによって意外な真相を提示することも広く行われている。
密室
[編集]ミステリにおける密室とは、 重要な要素の1つです。密室とは、外部からの侵入や脱出が困難な空間のことを指します。ミステリーの中で、密室は以下のような役割を果たします:
1. 謎の発生場所: 犯罪や不可解な出来事が起こる場所として登場し、読者の興味を引きつける。
2. 証拠隠滅の場所: 犯人が証拠を隠したり、遺体を隠したりする場所として機能する。
3. 推理の舞台: 探偵や警察が事件の真相を解明するために、密室の中で様々な手がかりを見つけ出す。
4. 緊張感の演出: 密室から脱出できないという状況設定により、読者に緊張感や恐怖感を与える。
5. 驚きの演出: 密室から誰かが現れたり、密室から脱出したりすることで、読者を驚かせる演出につながる。
このように、ミステリーにおける密室は、物語の展開や読者の感情を操る上で重要な役割を果たしています。作家は密室の設定を巧みに使い分けることで、ミステリーの面白さを引き出すのです。 詳細は密室殺人を参照。
クローズド・サークル
[編集]登場可能な容疑者が何らかの理由で内部にいる一定人数以下に限られる状況を指す。詳細はクローズド・サークルを参照。
アリバイ
[編集]ミステリにおけるアリバイとは、ある容疑者に犯行の機会が存在しないことと定義できる。この意味で先述の密室は全員にアリバイを証明可能な状況と言い直すことも出来る。現実の刑事訴訟法同様にミステリにおいても探偵役は容疑者に犯行の機会があることを証明しない限り真犯人とすることはできない。ゆえに犯人の側は様々なトリックを用いてアリバイを偽装することになる。このようなアリバイを巡る攻防を中心としたミステリはアリバイ崩しものと呼ばれる。
翻案・流用
[編集]『モンテ・クリスト伯』のように何度も翻案されている作品もある。郷原宏は日本の探偵小説は黒岩涙香の翻案小説から始まり、その第一作は明治21年(1888年)に新聞に連載された『法廷美人』であると述べている[4]。先行作品の探偵や怪盗などの登場人物を流用して物語を構成するパスティーシュ作品も定着した[注 1]。
日本は明治32年(1899年)にベルヌ条約に加盟しているが、それ以降も翻案権を取得していない国内の作品も多い。翻案や流用は何らかの注釈を入れたり、先行作品の作者に許可を得ている作品もある[注 2]。ただし、現在でもトリックなどのアイディアの流用・拝借・類似に関しては許可を取らなくても著作権法では問題がない(アイディア・表現二分論)。
ジャンルに対する著名人の言及
[編集]- ロルフ・ドベリ - 自著(シンク・クリアリー 300ページ)で、本は音楽のように繰り返して読むほうが良いとしているが、ミステリに関しては「二回読むのは不可能なジャンルだからだ。すでに結末のわかっている殺人事件について読みたいと思う人はいないだろう。」としている。
メディア別の代表的な作品一覧
[編集]以下は50音順
小説
[編集]• 十人の指名者(アガサ・クリスティー) - クリスティーの代表作の1つで、孤島で次々と人物が殺される謎を解く物語。
• 白い牙(ジャック・ロンドン) - 荒野を舞台にした犯罪小説であり、人間の本性を描いた作品。
• 羊たちの沈黙(トマス・ハリス) - 連続殺人鬼ハンニバル・レクターを主人公にした有名なサスペンス小説。
• 陰の伴走者(パトリック・モディアーノ) - フランスの作家による謎めいた雰囲気のミステリ小説。
漫画
[編集]以下は推理漫画の代表作の一部である:
- 名探偵コナン (青山剛昌)
- Detective Conan は日本で最も有名な推理漫画の1つです。主人公の工藤新一が犯罪を解決する物語。
- 地獄先生ぬ〜べ〜 (真倉翔)
- 主人公の沼田ぬ〜べ〜が霊能力を使って事件を解決する漫画です。ホラー要素も含まれている。
- 名探偵ホームズ (コナン・ドイル)
- 原作小説を漫画化したものです。シャーロック・ホームズによる推理が描かれている。
- 金田一少年の事件簿 (さとうふみや)
- 主人公の金田一耕助が難事件を解決していく漫画。
- 魔探偵ロキ (高橋留美子)
- 北欧神話の登場人物ロキが推理を行う漫画。
これらの作品は推理漫画のクラシックとして知られており、多くの読者に愛されている。
ドラマ
[編集]ゲーム
[編集]- EVEシリーズ
- かまいたちの夜
- ゴースト トリック
- 逆転裁判
- さんまの名探偵
- ファミコン探偵倶楽部
- 北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ
- ポートピア連続殺人事件
- 探偵 神宮寺三郎シリーズ
- TRICK×LOGIC
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 『奇巌城』『ルパン対ホームズ』『黄金仮面』『名探偵なんか怖くない』『金田一少年の事件簿』などの作品がある
- ^ 一例を挙げると江戸川乱歩は許可を得ていなかったものの『江戸川乱歩全集』の自作解説で幾つかのトリックは他作品からの流用だと説明しており、『少年探偵団シリーズ』では流用したトリックの内の一つは『ルパン』と同じものだと作中で示唆する台詞はある。乱歩は他にも初期の頃から『目羅博士』のように海外作品を下敷きにしている作品もあったが、『探偵小説四十年』によると後の『三角館の恐怖』は翻案権を取得している(『白髪鬼』『幽霊塔』も涙香の遺族に了承を得てリライトしている)。海外では著作権が厳しくない時代でも注釈をしている作品もある(ジュール・ヴェルヌの『アドリア海の復讐』等)。漫画作品の『パタリロ!』の「マリネラの吸血鬼」、『金田一少年の事件簿』の「異人館村殺人事件」は事後承諾で許可を得ている。