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ギャラルホルン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
18世紀のアイスランド写本NKS 1867 4to』に見られる、ヘイムダルがギャラルホルンを吹いている姿。

ギャラルホルン[1]古ノルド語: Gjallarhorn, Giallarhorn[2]ギャッラルホルンギョッルの角笛)は、北欧神話においてアースガルズの門番であるヘイムダルが持つ角笛で、ラグナロクの到来を告げるという[3]

概要

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角笛の名前は「gala」という言葉に由来する。この言葉は「叫ぶ」あるいは「歌い出す」という意味である。 また、シーグルズル・ノルダルによれば「galla」に由来し、「鳴り響く」「響きわたる」という意味であるという[4]

スノッリのエッダ』第一部「ギュルヴィたぶらかし」の中でギャラルホルンという名前は、ミーミルが「ミーミルの泉」から知識と知恵を高める水を汲んで飲むときに用いる、角でできた杯の名前としても用いられている[5]

「巫女の予言」でのギャラルホルン

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古エッダ』の「巫女の予言」は、ギャラルホルンに最大で2度言及している。明示的に Gjallarhorn と書いてあるのは1度で、ラグナロクが到来したときにヘイムダルがギャラルホルンを高らかに吹くことを描写する。もう1点それと思われるのは、ミーミルの泉に「ヘイムダルの聴覚」(Heimdallar hljóð) が隠されていると述べる部分である。

  • 「巫女の予言」原文(第27節、ノルダル校訂本に拠れば第19節)
    Veit hon Heimdallar
    hljóð um fólgit
    undir heiðvönum
    helgum baðmi;
    á sér hon ausask
    aurgum forsi
    af veði Valföðrs.
    Vituð ér enn eða hvat?
    Sophus Bugge 版 より引用)
    (大意:
    ヘイムダルの角笛(hljóð)が聖なる樹の元に隠されている。
    戦士の父(=オーディン)の担保(=眼球)から水がわき出している。
    まだ、知りたいか?)

「ギュルヴィたぶらかし」では、ミーミルは自身が守る泉の水をギャラルホルンで飲んでいるため賢いとされている。 その泉の底には、オーディンが泉の水を飲むために担保として差し出した眼球が沈んでいるとされ、よって「巫女の予言」の当該箇所は、「ミーミルの泉がある、 聖なる樹ユグドラシルの根元に、ヘイムダルの角笛が隠されている」と理解されるのが一般的である。 ギャラルホルンが、世界が衰滅する最後の戦いの始まりを告げる、いわば「危険な楽器」であるためである[6]

しかしノルダルは、通常はギャラルホルンのことだと解される「hljóð」を、ヘイムダルの「聴覚」だと解釈している。 その理由としてノルダルはまず、ラグナロクが迫った時にヘイムダルの手元にギャラルホルンがなければ意味がないことを挙げる。 また「fólgit」という語は、「安全な場所にギャラルホルンを保管する」という意味ではなく、「担保に入れる」と解すべきであるが、角笛そのものを担保に入れるとは考えられない。 ところで、角笛を指すのにここで最も適切な語は「horn」であるはずだが、「hljóð」という単語を詩人が用いている。 「hljóð」は「角笛の鳴る音」を意味する語で、転じて「角笛」を指すようになったが、本来は「傾聴」という意味である。 したがってこの節は、ギャラルホルンではなくヘイムダルの「聴覚」がオーディンの眼とともに担保に入れられたのだと解釈できる、としている[7]

ノルダルはさらに、アースガルズの板囲いの修理を請け負った工匠の巨人に対して約束の報酬を払わなかった誓約違反によって訪れた運命から救われる方法として、アース神族が選択したのが、ミーミルの知恵の泉の一口分を得るのに、オーディンの視力とヘイムダルの聴力をミーミルに渡すことであったと推論している。 つまり神々は賢さの代償に、外部に対する感覚を失ったのだとしている。 一切が混乱する前にヘイムダルがギャラルホルンを吹かなかったのは彼の聴力が弱化したためだとは断言できないものの、これらのことが神々の滅びの新しい段階であると、ノルダルは述べている[8]。 もちろんこの説を不自然として退ける研究者もいる[6]

脚注

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  1. ^ 谷口訳 (1973), 索引4頁にはギャラルホルン菅原 (1984), p. 319(索引)にはギャッラルホルンの表記がみられる。他、菅原 (1984), pp. 227, 293 にはギョッルの角笛(p. 227 では「ギャッラルホルン〔ギョッルの角笛〕」と補足の形式で)、菅原 (1984), p. 288 には角笛ギョッルの表記がみられる。
  2. ^ gjallarhorn sb. n. (ONP)”. Dictionary of Old Norse Prose英語版. コペンハーゲン大学. 2024年1月15日閲覧。
  3. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』13頁。
  4. ^ 『巫女の予言 エッダ詩校訂本』225頁。
  5. ^ 『エッダ 古代北欧歌謡集』236頁。
  6. ^ a b 『北欧神話・宇宙論の基礎構造』58頁。
  7. ^ 『巫女の予言 エッダ詩校訂本』185-187頁。
  8. ^ 『巫女の予言 エッダ詩校訂本』88-91頁。

参考文献

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  • G・ネッケル; H・クーン; A・ホルツマルク; J・ヘルガソン 編、谷口幸男 訳『エッダ 古代北欧歌謡集』新潮社、1973年8月30日。ISBN 978-4-10-313701-6 
  • 菅原, 邦城『北欧神話』東京書籍、1984年。全国書誌番号:85011498 
  • シーグルズル・ノルダル『巫女の予言 エッダ詩校訂本』菅原邦城訳、東海大学出版会、1993年、ISBN 978-4-486-01225-2
  • 尾崎和彦『北欧神話・宇宙論の基礎構造』白鳳社明治大学人文科学研究所叢書〉、1994年、ISBN 978-4-8262-0077-6

関連項目

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