フェノバルビタール
IUPAC命名法による物質名 | |
---|---|
| |
臨床データ | |
胎児危険度分類 |
|
法的規制 | |
薬物動態データ | |
生物学的利用能 | >95% |
血漿タンパク結合 | 20 to 45% |
代謝 | 肝臓 (大部分はCYP2C19) |
半減期 | 53-118時間 |
排泄 | 尿または糞便 |
データベースID | |
CAS番号 | 50-06-6 |
ATCコード | N05CA24 (WHO) N03AA02 (WHO) |
PubChem | CID: 4763 |
DrugBank | APRD00184 |
ChemSpider | 4599 |
UNII | YQE403BP4D |
KEGG | D00506 |
化学的データ | |
化学式 | C12H12N2O3 |
分子量 | 232.235 g/mol |
| |
フェノバルビタール(Phenobarbital、略号:PB)は、バルビツール酸系の抗てんかん薬である。日本ではフェノバールの名で販売される。適応は、不眠症・不安の鎮静や、てんかんの痙攣発作である。抗不安薬、睡眠薬といった用途では、現在ではより安全なベンゾジアゼピン系に置き換えられた[1]。てんかんにおいても、フェノバルビタールは第一選択薬ではない[2]。またベゲタミンの成分の1つであった[4]。
連用により薬物依存症、急激な量の減少により離脱症状を生じることがある[5]。医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律における劇薬、習慣性医薬品である。向精神薬に関する条約のスケジュールIVに指定される。麻薬及び向精神薬取締法における第三種向精神薬である。
作用機序
[編集]GABAA受容体に作用し、中枢神経系における抑制系の増強により興奮を抑制する。作用の発現は遅く持続的である(長時間作用型)。
適応
[編集]日本における適応は以下である[3]。
薬物動態学
[編集]バルビツール酸誘導体間で交差耐性が認められ[7]、シトクロムP450など解毒酵素の遺伝子発現を誘導する作用が強い[7]。
特にCyp3A4の誘導作用により、タクロリムスなどCyp3A4で代謝される薬物の血中濃度減少に働く。
フェノバルビタールは過量投薬のリスクが高く、治療薬物モニタリングが必要である[8]。なお、例えば炭酸水素ナトリウムを投与するなどことによって尿をアルカリ性にした場合、フェノバルビタールの尿中への排泄が速くなることが知られている[9]。
副作用
[編集]バルビツール酸系は治療域と毒性域が近く、過剰摂取時に致命的となりえるため[11]、特に抗不安薬、睡眠薬といった用途では、現在ではより安全なベンゾジアゼピン系に置き換えられた[1]。また、急速に耐性を生じ離脱を急速に進めた場合、交感神経系の過剰亢進による痙攣大発作に注意が必要とされている[1]。
日本では2017年3月に「重大な副作用」の項に、連用により薬物依存症を生じることがあるので用量と使用期間に注意し慎重に投与し、急激な量の減少によって離脱症状が生じるため徐々に減量する旨が追加され、厚生労働省よりこのことの周知徹底のため関係機関に通達がなされた[5]。調査結果には、日本の診療ガイドライン5つ、日本の学術雑誌8誌による要旨が記載されている[12]。
食欲減退の副作用があり、無承認無許可医薬品として海外製ダイエットサプリメントでの検出事例がある[13]。
フェノバルビタールは甲状腺ホルモンの代謝を促進し、血中の甲状腺ホルモン濃度を低下させ、下垂体からの甲状腺刺激ホルモンの分泌を亢進させる。
フェニトインやカルバマゼピン、バルプロ酸など他の抗てんかん薬と同様に葉酸の吸収や代謝に影響し、貧血(巨赤芽球性貧血)を引き起こしうる。
診療ガイドライン
[編集]2010年のてんかん治療ガイドラインにおいても、フェノバルビタールの優先度は低いため、第一選択の薬としては推奨されていない[2]。中止の際には漸減が原則であり、急な中止は、痙攣重積を生じる[14]。
出典
[編集]- ^ a b c 世界保健機関 (1994) (pdf). Lexicon of alchol and drug term. World Health Organization. pp. 18-19. ISBN 92-4-154468-6 (HTML版 introductionが省略されている)
- ^ a b 日本神経学会(監修)『てんかん治療ガイドライン2010』医学書院、2010年。ISBN 978-4-260-01122-8 。
- ^ a b c d 水島裕 編『今日の治療薬』(22版)南江堂、2000年、736頁。ISBN 9784524221479。
- ^ A錠:40mg、B錠:30mg。[3]
- ^ a b 厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長『催眠鎮静薬、抗不安薬および抗てんかん薬の「使用上の注意」改訂の周知について (薬生安発0321第2号)』(pdf)(プレスリリース) 。2017年3月25日閲覧。、および、“使用上の注意改訂情報(平成29年3月21日指示分)”. 医薬品医療機器総合機構 (2017年3月21日). 2017年3月25日閲覧。
- ^ てんかん、自律神経発作、精神運動発作[3]
- ^ a b 伊藤勝昭ほか編集 『新獣医薬理学 第二版』 近代出版 2004年 ISBN 4874021018
- ^ 日本臨床薬理学会『臨床薬理学』(第3版)医学書院、2011年、78頁。ISBN 978-4260012324。
- ^ その9 バルビタール系薬物
- ^ 東京化学同人 編『化学大辞典』(1版)、1989年、1968頁。ISBN 9784807903238。
- ^ 用量最大200mg/dayに対し[3]ラットLD50(経口)162±14mg/kg[10]
- ^ 医薬品医療機器総合機構『調査結果報告書』(pdf)(プレスリリース)医薬品医療機器総合機構、2017年2月28日 。2017年3月25日閲覧。
- ^ “「ホスピタルダイエット」などと称されるタイ製の向精神薬等を含有する無承認無許可医薬品による健康被害事例について|厚生労働省”. www.mhlw.go.jp. 2020年7月7日閲覧。
- ^ 同『てんかん治療ガイドライン2010』102頁。